じれったい
彼のお兄さんが教えてくれたお母さんの入院先を訪ねた。

受付で病室を訪ねた後、私たちはすぐそこへと足を向かわせた。

「玉置常務」

エレベーターには、私と玉置常務の2人だけだ。

名前を呼んだ私に、
「どうかしましたか?」

玉置常務が聞いてきた。

「もし…もし途中でダメだと思った場合は、言ってくださいね?」

そう声をかけた私に、
「もう逃げませんよ」

玉置常務が言った。

「矢萩さんの言う通り、自分の過去とちゃんと向きあいます。

そして、絶ち切ってみせます」

玉置常務はそこで言葉を区切ると、
「思い出と言うものはさ、乾けばすぐに燃えてしまうものなんだよ」

いつか見た映画のセリフを言った。
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