じれったい
もう1人じゃない。

私はもう、1人じゃないんだ。

「――玉置、常務…」

泣きながら名前を呼んだ私に、
「“和歳”と、名前で呼んでください」

玉置常務が言った。

彼の名前を言うために、目の前の瞳を見つめた。

黒いビー玉のような瞳が泣いている私を見つめている。

そっと唇を開いて、
「――和歳…」

音を発して、玉置常務の名前を呼んだ。

「――莉亜…」

玉置常務は愛しそうに私の名前を呼んだ後、私を抱きしめた。

背中に回っている玉置常務の両手が、彼と結ばれたことを教えてくれた。

目の前のぬくもりをもっと感じるために、私も玉置常務の背中に自分の両手を回した。
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