3.5センチメートルの境界線












コートに下りるとまだ顧問は居なかった。

昨日のいざこざの事もあり、少し気まずい雰囲気だった。



「あ、絵理先輩!おはようございます!」


「あ…佳奈、おはよう。」



後輩の飯島 佳奈はいつも明るく絵理を励ましてくれる頼れる後輩だ。
何があっても変わらない笑顔を見せてくれる。



「昨日の事、気にしないで下さいね。
あの先輩、また今日も腹痛で休む~!って言ってサボりらしいですよ!まったく…」


「あ、あはは…ありがとう。
…そ、そういえば先生達は?」


「あ~さっきまでそこにいらしてたんですけど、学校に緊急の電話が入ったとかで職員室に行っちゃいましたよ。」


「あ…そうなんだ。先生がこの時間に居ないの珍しいなーって思って。」


「なんか職員室の方も慌ててて、結構やばめの電話だったみたいですけど…。」


「ふーん…。」



佳奈がコートの横にある時計を見る。



「どうしますか?もうすぐ練習始まる時間ですけど…。」


「そうだね、先に練習始めてよっか。」



部活の同級生や後輩に練習の準備の指示を出して、練習を始める。





しばらくすると、テニス部の顧問2人がコートに下りてきた。

絵理はすぐ顧問達のそばに寄っていき、挨拶をする。



「おはようございます。」


「おはよう、集合してくれ。」


「…?は、はい。」



いつも優しい顧問らの真剣な表情に違和感を覚えつつ、部員に集合の指示をして、顧問達の前に集めさせる。

テニス部の顧問のうちの1人、愛川先生は一息ついてから静かに話し始めた。



「お前達に話さなきゃいけないことがある。」



『…………なんだろう』



胸騒ぎがした。

夏の試合の対戦相手の当たりが悪いだとか、やる気のなかったあの同級生が退部するだとか、そんな事ではない、もっともっと大きな…。



「榎本 俊太君が、昨晩亡くなったそうだ。」








セミの音がふと

止まった気がした。













< 5 / 12 >

この作品をシェア

pagetop