3.5センチメートルの境界線
コートに下りるとまだ顧問は居なかった。
昨日のいざこざの事もあり、少し気まずい雰囲気だった。
「あ、絵理先輩!おはようございます!」
「あ…佳奈、おはよう。」
後輩の飯島 佳奈はいつも明るく絵理を励ましてくれる頼れる後輩だ。
何があっても変わらない笑顔を見せてくれる。
「昨日の事、気にしないで下さいね。
あの先輩、また今日も腹痛で休む~!って言ってサボりらしいですよ!まったく…」
「あ、あはは…ありがとう。
…そ、そういえば先生達は?」
「あ~さっきまでそこにいらしてたんですけど、学校に緊急の電話が入ったとかで職員室に行っちゃいましたよ。」
「あ…そうなんだ。先生がこの時間に居ないの珍しいなーって思って。」
「なんか職員室の方も慌ててて、結構やばめの電話だったみたいですけど…。」
「ふーん…。」
佳奈がコートの横にある時計を見る。
「どうしますか?もうすぐ練習始まる時間ですけど…。」
「そうだね、先に練習始めてよっか。」
部活の同級生や後輩に練習の準備の指示を出して、練習を始める。
しばらくすると、テニス部の顧問2人がコートに下りてきた。
絵理はすぐ顧問達のそばに寄っていき、挨拶をする。
「おはようございます。」
「おはよう、集合してくれ。」
「…?は、はい。」
いつも優しい顧問らの真剣な表情に違和感を覚えつつ、部員に集合の指示をして、顧問達の前に集めさせる。
テニス部の顧問のうちの1人、愛川先生は一息ついてから静かに話し始めた。
「お前達に話さなきゃいけないことがある。」
『…………なんだろう』
胸騒ぎがした。
夏の試合の対戦相手の当たりが悪いだとか、やる気のなかったあの同級生が退部するだとか、そんな事ではない、もっともっと大きな…。
「榎本 俊太君が、昨晩亡くなったそうだ。」
セミの音がふと
止まった気がした。