3.5センチメートルの境界線

大嫌いな













「絵理、学校…いかないの?」


「いかない。」



リビングのソファに座っていると、母の心配そうな声が後ろから聞こえる。



「…みんな心配してるわよ?」


「…………」




耳障りな“心配”



私にはもうなにもいらない





「勉強だって…追いつけなくなったら絵理も困るでしょう?」


「………」


「…今ならまだ間に合うわよ?みんな助けてくれるわ。」


「…お母さん。」


「え?なぁに?」


「私は心配してくれなんて、誰にも頼んでないけど。」




淡々と吐く、尖った言葉に母の表情は変わった。




「……絵理、いい加減にしなさい。」


「うるさいな、学校学校って。そんな気になるなら、お母さんが学校行けば?」


「私はあなたの事を思って言ってるのよ?」


「嘘、そんなの嘘だよ。」




立ち上がってリビングから出て行く。

母が絵理の名を呼ぶが、無視して階段を駆け上がり、自分の部屋に閉じこもる。










…いつまでこんな
つまらない日常が続くのだろうか



あいつと喋ったら、
少しは楽になるかな




…あぁそういえば

あいつは…もう居ないんだっけ





「…………」










……………………




先生に俊太が死んだ事を知らされた日、
息が切れて髪の毛がぐしゃぐしゃになっても、気にせず家まで走った。


バタバタと家に入り、部屋に置いていった携帯電話で俊太の電話番号を急いで押す。







プルルルル


  プルルルル







ただ、一定の音が流れるだけ。







「なんで……なんで出ないの……!!」






その瞬間、音が途切れた。




「…!……もしもし?俊太!?」


『…もしもし?』



電話越しに聞こえたのは明らかに女性の声だった。



「…え?……しゅん、た……」


『もしかして…あなた…絵理ちゃん…?』


「そう…ですけど…。あなたは…?どうして俊太の携帯で……」


『私は俊太の母です。……ごめんなさい、俊太が電話に出れなくって…』


「!…俊太は!俊太、今何してるんですか!?
わ、私!先生から変な事聞かされて!」


『…………』



電話から音が途切れた数秒後、震える声で俊太の母は言った。




『俊太は…俊太はもう…動かないの。

ついさっき……』





全身から何かが抜け落ちた気がした。





『死んでしまったの』












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