男装少女争・奪・戦 ~誰か選ぶとか無理だから!~ 【完】
彼女の笑顔 side心
僕の目の前には木製の扉。隣のプレートには生徒会室の文字。
すうと息をはく。手にはじっとりと汗をかいていた。
そしてあることを確かめるために、僕はそっと扉に手をかけた。
扉の奥には二人。
西園寺正信と鹿島竜の姿。
二人の姿しかないのは僕が来ることを知っていたのか、はたまた偶然か。
「こんにちは、西園寺先輩、鹿島先輩」
ニコニコと人好きのする笑顔を貼り付けて言う。
「ところで西園寺先輩は、み……野田沙耶香を追うつもりはあるんですか?」
相手が何かを口にする前に自分から話を持ち出した。
「昨日、本人から聞きました。しかし納得できないんですよ。あなたはそう簡単に手放すのにも関わらずなぜあんなことをしたんですか?」
ニヤリと西園寺が笑うのが見えた。
その笑いに僕はぞくりと背筋が寒くなるのを気づかないふりをして言葉を続ける。
「あの時野田沙耶香を行かせたのは西園寺家の手の届かない場所に彼女らが行ってしまうことを危惧したのではないか、と僕は考えたんです。だとしたらまだあなたが彼女を諦めていない可能性がある……」
最後まで言い終わる前に西園寺がダンッとデスクを叩いた。
「テメェはあんな女のために俺が労力を裂くと、本気で言ってやがんのか?」
その言葉だけで部屋の空気が変わる。僕はできるだけ表情を変えぬように努めた。
「まさか。可能性の話です。
ただ僕は、いえ、"僕達"は彼女の幸せを第一に考えているので。最悪の場合を想定しているだけです」
僕が言いたいのはそれだけです、と言って僕は西園寺に背を向けて生徒会室から出ようとし、そこで後ろから声をかけられた。
いや、後ろで呟きが聞こえたと言うべきか。
「テメェらだけがあいつのために動こうとしてる訳じゃあねぇだろおよ」
もしかしたらそれは空耳だったのかもしれなくて、それでも僕にはそう聞こえた。
――――――――――――――――――――
教室に行くとすぐにみっちゃんが僕の元に来た。
「心」
「んー? なあに?」
何も知らない振りをしてふわふわと笑う僕に、彼女は言う。
「ありがとう」
「なにが~?」
「祐一郎から教えてもらったんだ。祐一郎が西園寺家に入るのに協力してくれたんでしょ?」
「ゆうちゃんに秘密にしてって頼んだんだけどなぁ」
冗談めかして笑えばそれにこたえて笑うみっちゃん。
「はははっ。それじゃあ鹿島先輩にもお礼言ってくる」
駆けていく"彼女"の姿を見て一瞬、一瞬だけ、ツキンと胸が痛んだけれど、すぐに温かいモノに変わった。
僕は彼女の"友達"でしかないけれど、確かに彼女の笑顔は僕に向けられていたから、僕はそれだけで満足に思えてしまうのだ。
すうと息をはく。手にはじっとりと汗をかいていた。
そしてあることを確かめるために、僕はそっと扉に手をかけた。
扉の奥には二人。
西園寺正信と鹿島竜の姿。
二人の姿しかないのは僕が来ることを知っていたのか、はたまた偶然か。
「こんにちは、西園寺先輩、鹿島先輩」
ニコニコと人好きのする笑顔を貼り付けて言う。
「ところで西園寺先輩は、み……野田沙耶香を追うつもりはあるんですか?」
相手が何かを口にする前に自分から話を持ち出した。
「昨日、本人から聞きました。しかし納得できないんですよ。あなたはそう簡単に手放すのにも関わらずなぜあんなことをしたんですか?」
ニヤリと西園寺が笑うのが見えた。
その笑いに僕はぞくりと背筋が寒くなるのを気づかないふりをして言葉を続ける。
「あの時野田沙耶香を行かせたのは西園寺家の手の届かない場所に彼女らが行ってしまうことを危惧したのではないか、と僕は考えたんです。だとしたらまだあなたが彼女を諦めていない可能性がある……」
最後まで言い終わる前に西園寺がダンッとデスクを叩いた。
「テメェはあんな女のために俺が労力を裂くと、本気で言ってやがんのか?」
その言葉だけで部屋の空気が変わる。僕はできるだけ表情を変えぬように努めた。
「まさか。可能性の話です。
ただ僕は、いえ、"僕達"は彼女の幸せを第一に考えているので。最悪の場合を想定しているだけです」
僕が言いたいのはそれだけです、と言って僕は西園寺に背を向けて生徒会室から出ようとし、そこで後ろから声をかけられた。
いや、後ろで呟きが聞こえたと言うべきか。
「テメェらだけがあいつのために動こうとしてる訳じゃあねぇだろおよ」
もしかしたらそれは空耳だったのかもしれなくて、それでも僕にはそう聞こえた。
――――――――――――――――――――
教室に行くとすぐにみっちゃんが僕の元に来た。
「心」
「んー? なあに?」
何も知らない振りをしてふわふわと笑う僕に、彼女は言う。
「ありがとう」
「なにが~?」
「祐一郎から教えてもらったんだ。祐一郎が西園寺家に入るのに協力してくれたんでしょ?」
「ゆうちゃんに秘密にしてって頼んだんだけどなぁ」
冗談めかして笑えばそれにこたえて笑うみっちゃん。
「はははっ。それじゃあ鹿島先輩にもお礼言ってくる」
駆けていく"彼女"の姿を見て一瞬、一瞬だけ、ツキンと胸が痛んだけれど、すぐに温かいモノに変わった。
僕は彼女の"友達"でしかないけれど、確かに彼女の笑顔は僕に向けられていたから、僕はそれだけで満足に思えてしまうのだ。