國比呂少年怪異譚
「何これ?プレミアもん?」

「いや、見た事ないけど…この置物買おうかな」

まぁ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、オブジェクトとしては悪くないかもしれない。

俺は『安かったら買っちゃえば』と言った。

レジにその正二十面体を持って行く。

しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。

「すいません、これ幾らですか?」

その時、俺は見逃さなかった。

ジイさんが古本から目線を上げ、正二十面体を見た時の表情を。

驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、すぐさま普通のジイさんの表情になった。

「あっ、あぁ…これね…えーっと、幾らだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」

そう言うとジイさんは、奥の部屋(恐らく自宅兼)に入っていった。

奥さんらしき老女と、何か言い争っているのが断片的に聞こえた。

やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。

「それはね、いわゆる玩具の1つでね。リンフォンって名前で。この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」

ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。

随分と古いものらしい。

紙には例の正二十面体の絵に『RINFONE(リンフォン)』と書かれており、それが『熊』→『鷹』→『魚』に変形する経緯が絵で描かれていた。

訳の分からない言語も添えてあった。

ジイさんが言うには、ラテン語と英語で書かれているらしい。

「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。まず、リンフォンを両手で包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」

彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。

すると、カチッという音がして、正二十面体の面の一部が隆起したのだ。

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