恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
1.婚約指輪I
「綾乃、明日指輪選びに行こう」
金曜日、晩御飯を食べながら、圭太郎がニコニコして言った。
ダイニングテーブルの向こう側に座るのは、私、橘綾乃の、結婚を約束した彼氏である。
(……いわゆる婚約者、なのだけれど、“婚約者”というのは何だか非常に恥ずかしい。)
同じ会社の同期。
部署は違うけれど、同じフロアで働いてる。
顔、よし。
スタイル、よし。
頭、よし。
育ち、よし。
ただし、性格、腹黒い。
会社では猫を被っていて、目立たないように振るまい、さらっと仕事をこなし、滅多に残業しない。
特技、ヴァイオリン。専門ジャンルはクラシック。腕はセミプロ。現在市民オーケストラのコンサートマスター。
私も大学時代にヴァイオリンを弾いていたので、彼がどれだけすごいか、少しはわかる。
そのせいでヴァイオリニストとしての彼に対してはつい過保護になってしまい、そのたびに怒られるけど。
同期ではあるものの、付き合い始めたのは、約4か月前。
先日プロポーズされた。
「婚約指輪と結婚指輪、一緒に選ぼう」
決定事項として嬉しそうに話す彼に、私はおそるおそる切り出す。
「……あの。圭太郎。
……婚約指輪、いらないって言ったら怒る?」
圭太郎は唖然とし、お箸が止まった。
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