恋色シンフォニー 〜第2楽章〜
「で、販促には来月、鈴木さんが育休から戻ってくる。三神が異動」
羽鳥さんが、圭太郎を見て言った。
圭太郎は驚いた様子もなくうなづいた。
「どこに行くかはまだ決まっていない。っていうのも、あんた、大人気で、争奪戦が繰り広げられてんのよ。最終的には社長判断になるかな」
わ。圭太郎、そんなに評価されてるんだ。
さすが上の人はよく見てるんだなぁ。
よかった、と安心すると同時に、彼を誇らしく思った。
「私、先のこととか、あまり考えてなかったから、圭太郎とか、今日の部長達が先々のことまで考えていて、反省した」
あの後、いつもの定食屋さんで食事。
私も一歩先くらいは見てるつもりだったけれど、みんな、二歩先三歩先まで見てるんだもの。
「別に落ち込むことないよ。足元をしっかり見ることも必要。男と女の違いかもしれないね」
「そうかなぁ」
「父と母が僕の教育方針でよく対立してたから。
目の前のレッスンやコンクールが大切っていう母と、長い人生を見据えたらいろんなことを経験すべきだっていう父。よく家族会議してた」
……きっとハイレベルな議論だったに違いない。