反対言葉。



   *


「ほら」

「すみません、ありがとうございます」

「ん」


知るか、と言っていたのに、お砂糖もミルクもない状態で運んできてくれた。優しい。


「いただきます」


受け取ったカップに口をつけながら、わたしは目の前の人が口元を吊り上げたのを見た。


怖い人なのかと思ったけど、足を気遣ってくれた(のだと思う。視線の動き的に)し、頼んだ通りストレートの紅茶を運んできてくれたし、わたしの拙いけれど精一杯の礼儀正しさをかき集めた対応に、不機嫌な表情から少し鋭さが抜けた。


礼儀正しいのは嫌いじゃないみたいだ。


わたしが知るかぎり、そういう人は、総じて悪い人じゃない。


彼は飲み終わっていたさっきの紙コップをついでに捨ててきたらしく、わたしと同じくプラスチックのカップに注がれた紅茶を飲んでいる。


ふ、と、その薄い唇が、こもる熱さを逃すように息を吐いた。


「あの、急に声をかけてすみませっ」

「まずは落ち着け」

「むぐ」


わたしの口を封じるように、いつの間にか買ってきていたらしきハーブ入りのクッキーを押し込んで、彼はその指先についた粉を舐めた。


さっきはなかったから、多分今しがた行きがけに買ってきたのだろう。


……行儀が悪い行いなのに、その節の高い指と妖しい舌でなんだか耽美的なんですけど。くそう、イケメンめ。
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