反対言葉。
おとなしく座ったそいつの「ありがとうございます。失礼します」という礼儀正しい断りに、若干鋭さを抜いて流し見る。


嘆息して立ち上がった俺に、慌てて追随しようと腰を浮かせるのを、気だるい口調のまま遮った。


「いいから座っとけ」

「でも」

「茶くらい奢ってやろうかと思っただけだ」

「え」

「別に、お前を置いて立ち去ろうとか思ってねえよ。いいからおとなしくしとけ。立つな」


俺が放った言葉にまばたきをして、青白い顔を現金なほど朗らかに緩め、腰を落とした女子高生。


「……ありがとう、ございます」

「は、どうも」


しっかり座り直したのを確認する。


「もし脱ぎたかったら靴も脱いでもいいから。足むくむとつらいだろ」

「ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えて」


いそいそ脱いだのを尻目に、よし、と頷いて行こうとする俺を引き止めるように、細かい注文が飛んできた。


「あ、わたし紅茶がいいですー! ストレートで!」

「うるせえよ! 知るか!」


舌打ちしてずんずん歩いたのは言うまでもない。
< 9 / 29 >

この作品をシェア

pagetop