誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


あの時期までは、確かに自分は初心だったと、斎藤も自覚している。


無論、男所帯の新撰組にあって女を買わぬ者などいなかったから、斎藤も年上の連中に誘われて花街に繰り出し、興味と欲望を芸妓にぶつけたことはある。


気分が晴れたかといえば、案外そうでもなかった。


女は面倒くさいと思った。


人と喋ることも触れ合うことも苦手な斎藤には、接待が細やかなくせに気位の高い京都の花街の芸妓は、少し気味の悪い生き物にも思えた。



相手を生き物であり人であると思うから、溺れることができなかったのだ。


何とも思わなければよい。


それに気付いたのは、六月、土方の指示を受けて武田観柳斎を斬った後だった。


血と脂を拭っただけの刀を差したまま、祇園をさまよい歩いた斎藤は、乙部【おつぶ】の安い茶屋で女を買った。


斎藤の唇や肌を吸いたがる女の口を手のひらで封じ、言葉はおろか声も出せぬようにして、犯すように抱いた。


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