誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
「さよなら」
吐息のように呟いて、斎藤は東山の坂道を駆け下りた。
底冷えのする気候の中でも体はたちまち火照ったのに、胃の腑は凍えるように痛んだ。
塩小路堀川の辻のそばにある不動堂村の新撰組屯所まで、斎藤は駆け通した。
何度も噛み締めた唇と、きつく握って爪を立てた手のひらは、あちこち裂けて血を滲ませていた。
屯所に戻った斎藤を、近藤や土方、永倉、原田たちは当然のものとして迎え入れた。
斎藤は、今なら伊東が近藤の誘いに応じるであろうと、淡々として報告する自分の声を聞いた。
御陵衛士の面々の様子、大事が起こった場合の出動態勢と役割分担、伊東が外部の誰と通じているか、誰と連携したがっていたか、
そうした事柄を逐一、記憶してきた通りに語った。