誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


近藤が、試衛館に通う頃の十代前半の斎藤に見せていたのと同じ顔で、よくやり遂げてくれたと斎藤をねぎらった。


少し休むように勧められたが、斎藤は頑【かたく】なにかぶりを振った。



「俺はここにいない方がいい。


斎藤一の名を、すぐに新撰組から抹消してほしい。必要なら、伊東さんたちにもそれを知らせてほしい。裏切り者の斎藤一はもう存在しないと、そう言っても、嘘ではないから。


俺は、斎藤一の名を捨てて、別の名で生きる」



永倉が何か言いかけた。


武田を殺した銭取橋でのやり取りを持ち出そうとしたのだろう。


斎藤は、永倉に先んじて再び口を開き、潜伏先の候補を土方に問うた。


紀州藩の公用人で信頼の置ける人物がいると紹介され、斎藤はその日のうちに新撰組屯所を離れた。


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