誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


十一月十八日、伊東は近藤の誘いに応じ、新撰組屯所近くにある近藤の妾【めかけ】の邸宅で、酒を飲みながらの談義に花を咲かせた。


近藤も土方も真剣に伊東の話を聞き、自論との違いを挙げては質問を重ね、歩み寄りの方向性を探るかに見えた。



本籍の姓から取って山口二郎と名を改めた斎藤は、永倉や原田と共に宴席の隣室に潜んで、じっと様子を伺っていた。


斎藤、と原田が囁き声で呼び掛けた。


その名は違うと何度言っても、誰も山口二郎とは呼んでくれない。


斎藤は諦めて、彼らの呼び掛けに応じるようにしている。



「原田さん、何だ?」



「伊東甲子太郎は、高台寺ではいつもあんな風だったのか?」



「いつももっと沈んでいた。今日は楽しそうだ」


< 146 / 155 >

この作品をシェア

pagetop