誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
「そうかい。面の皮の厚そうな男だと思ってたんだが、勘違いだったな。ちびっこい犬みてえに虚勢を張って、随分とよく鳴いてやがる。
よっぽど不安だったんだろうし、今も肝が冷えて仕方がねえんだろう」
「でも、伊東さんは一人で来た。それが精一杯の虚勢だとしても」
「覚悟はできてるってことだろうよ。伊東は、山南さんと親しかったわけだしな。
俺は伊東のすかした顔も頭でっかちの理論も好きじゃねえが、伊東が山南さんのために詠んだ歌は、いいと思った。
伊東が山南さんの士道や覚悟をわかってるんじゃなきゃ、あんな言葉は出て来なかったはずだ」