誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


賑やかな性格の藤堂が、声を発するまでに時間を要した。


普段ならば、毬【まり】が弾むように駆けながら、不用心なほどの大声で人の名を呼んだり、ばしんと音を立てて背中を打ったりなどする。


何度やられても、飛び付かれるたびに身構えてしまう斎藤は、藤堂の足音を完全に覚えている。


藤堂が近付いて来ると察したら、先に振り返っておけばいいのだ。



藤堂は、晒木綿でぐるぐる巻きの頭を指先で小突いてみせ、にっと歯を出して笑った。



「まあ、万全じゃあねえな。今、斬り掛かられたんじゃ、ちょいとまずいね。愛刀の方もぼろぼろになっちまった。


が、満身創痍の俺の目の前には、斎藤一という凄腕の剣客がいる。何かありゃ、手負いの味方一人、背中に庇【かば】って戦うのも御手の物だろ?」


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