誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
なるほど、と思った。
土方あたりが、斎藤を連れ戻すために藤堂を寄越したのだろう。
時に単独行動をしたがる斎藤の性質は皆が承知するところだが、物を頼まれれば断れぬ性質であることもまた皆が認めている。
憎めぬ笑顔をした藤堂に、護衛してくれと言われてしまうと、斎藤もわがままを押し通せない。
斎藤は藤堂の方へ歩を踏み出した。
藤堂が、普段よりおとなしげな手付きで、斎藤の背中を叩く。
ふと斎藤は、どうでもよいことに気が付いた。
先ほど藤堂に掛けられた言葉である。
「猫と言われたのは初めてだ」
「はあ? 何を言ってるんだ。猫だろうよ、斎藤は。
無口で、自分勝手なところがあって、気紛れそうに見えるくせに、意外と人にすり寄ってくる。犬みてえに、きゃんきゃん吠えたりしねえしな」