誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
吠えはしないが、違う。
斎藤は猫ではない。
いぬ、と呼ばれている。
犬ではなく、狗だ。
主の意のままに使われる走狗だ。
黙り込む斎藤の隣で、藤堂が大きく息をついた。
眠い、と呟くのが聞こえた。
壮絶な斬り合いを演じ、額に深い傷を負えば、さすがの藤堂も体力が持つまい。
横になって休ませた方がよい。
明日は、池田屋の残党や関係者を討ち取りに行く手筈だが、藤堂や沖田は動員できない。
主力は昨夜の土方隊となるだろう。
であれば、斎藤こそが先鋒を務めるはずだ。
難儀だ。
人を斬るのは疲れる。
それでも、狗である斎藤は、斬らねばならない。