誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


夏の京都は、日が沈もうが月が出ようが、いつでも暑い。


御天道様【おてんとうさま】が張り切るせいで暑いわけじゃあねえんだと、四国は伊予の生まれの原田左之助が言っていた。


伊予の御天道様はかんかんに熱い。


京都はそうじゃねえ。


四方を囲う山並みの底に溜【た】まった暑気が、川の湿気と混じり合って、べたべたとまとわり付いてくるのさ。



そもそも京都は気が淀【よど】んでやがるんだ、と原田の言葉を受けて顔をしかめたのは、北辰一刀流の名手で鳴らす藤堂平助だった。


昔っからの邪気や怨念が、鍋底みてえなこの地形に溜まった挙句【あげく】、凝【こ】り固まってんだぜ。


すっぱりとした物言いと振る舞いを好む江戸っ子の藤堂は、雅やかな風情の裏で権謀術数の渦巻く京都という土地を、端から好んでいなかった。


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