誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


そのとき斎藤は、間者として市街に紛れている折で、腰に刀を差していなかった。


丸めた背中に背負子【しょいこ】を担【かつ】ぎ、おとなしげな薬売りのふりをしながら、皮肉な気持ちになった。


共食いをする狼、敵を食らう以上に多くの味方を食らう狼とは、俺のことだ。


あんたら、目の前に狼がいるってこと、知りたいか?


知らずにいたいか?



斎藤はまさに脱走した隊士の行方を追っていた。


居所を突き止めれば、近藤や土方に報告する。


追手として改めて差し向けられるのは、斎藤か沖田が多かった。


切腹を選ぶ権利を与えられる脱走者もいるが、大抵はその場で斬り捨てた。


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