誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
池田屋に突入する予定だった馬詰信十郎と柳太郎の父子も、突入直前であるその日の午後、いつの間にか姿を消していた。
夏に入って幾人目の脱走者だっただろうかと、斎藤はもう数えるのも面倒になっている。
追えと命じられた者を追えばいい。
彼らの顔やら名前やら、必要になった時点で覚えることにする。
今朝の藤堂は、失った血の量が馬鹿にならないと見え、もとより白い肌を一層白くして、刀も差さぬ着流し姿である。
しばらくは剣術稽古も御預けにして養生すべしと、金瘡医【きんそうい】に言い渡されていた。
熱の引かぬ沖田も部屋に籠っているという。