誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
一連の情報を話し終えて、少し黙る。
御茶をもう一杯、と勧める志乃に、何とはなしに問い掛けてみる。
「話すだけで、よいのか?」
新撰組が、まだその名を持たぬうちから、斎藤に課せられた役目はそれだけだった。
近藤勇と土方歳三を中心とする佐幕派の武力集団に所属し、その内側から見聞きしたこと、その内側で見聞きしたことを、正直に話す。
「御話のほかに、斎藤様には何が御出来にならはるのどす?」
「刀が使える。刀しか使えない」
「あら、刀一本でどうこうできる御時勢やと、斎藤様は思うてはりますの? まあ、御勇ましいわぁ」
志乃は、ころころと笑ってみせた。
斎藤は、じっと、志乃を見ていた。
色白な丸顔で、美人と呼んでいい。
愛敬のある垂れがちの目は、決して笑わない。
ぽってりとした唇にはどんな毒が仕込まれているやら、蠱惑【こわく】的であるほどに不気味でもある。