誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


唐突に、志乃は声を立てて笑うのをやめた。


唇の両端を持ち上げたまま、まろやかな響きの声に、かつて男が放った言葉を載せた。



「火種には巻き込まれておけ。ただし、自分は燃えるな、熱くなるな。見聞きせよ。新撰組という手札は、切れるときまで残しておく。おそらく、最終局面まで。


斎藤様も、もちろん覚えてはりますでしょう?」



斎藤はうなずいた。


自分がどれほど小さな存在であるか、了解している。


あの人は、幕府だの朝廷だのと論じている場合でも、藩だの派閥だのと争っている場合でもないと言った。


日本という国全体を一括【ひとくく】りにしたってちっぽけなんだ、とも言った。


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