誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
三 試衛館
斎藤は江戸の生まれである。
本籍の姓は、山口という。
父は明石の出身で、母は会津から川越に移ってきた。
二人とも武家の血筋だが、江戸での暮らし向きは百姓と大差なかった。
四つ上の姉と、一つ上の兄がいる。
明石の父と会津の母と、江戸の長屋の井戸端で物心ついた姉は、それぞれ話す言葉が違ったから、幼い斎藤は誰を真似して喋ればよいかわからなかった。
めちゃくちゃに混じった言葉を話す兄は、近所の子供らにからかわれていた。
斎藤が今でも無口なのは、言葉を発すれば笑われると思い込んでいたあの頃の影響が大きいかもしれない。