誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
沖田の剣は、天才の剣と呼ばれていた。
剣先の下がった無防備な構えで相手を誘い、迅速の刺突で仕留める。
斬る剣の強さは鍛錬によって培うことができるが、沖田のような突きの速さは天性のものだ。
速さを活かした沖田の鋭剣は、師範の近藤ら大人たちをも圧倒した。
藤堂は、沖田とはまた違った意味で、誰にも真似できぬ剣技を使った。
度胸と胆力は人一倍だと号する藤堂は、小柄な体格を幸いとし、毬【まり】のように身軽に弾んで、相手の懐に飛び込んでいく。
体の大きな剣士であるほど、長い腕と刀で対処できぬ藤堂の突撃の苦手とした。