誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
もしも彼らが強くなければ、斎藤は左利きを完全に矯正し、右手で礼儀正しく剣を振るっていたかもしれない。
実際のところ、沖田も藤堂も、十代半ばの頃には完全に大人たちを凌駕して強かった。
斎藤は、置いて行かれるわけにはいかなかった。
だから、非礼を承知で左利きの剣技を磨いた。
左手で刀を抜く武士はいない。
他流試合の場で、斎藤が右利きによる一般的で儀礼的な剣技を離れて本気で戦うことがあれば、
相対する者は、左手の動きは一つも読めぬと困惑し、何もできぬままに敗れていく。
近藤も土方も、これを称賛しておもしろがった。
儀礼の剣を右で、戦闘の剣を左で極めれば、斎藤は無敵の剣を振るうようになると言った。