誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
一瞬だった。
皮膚を断ち、血管を断ち、脛骨を断つ感触が、鳥肌の立つような痺れを左手から全身へと走らせた。
心地よいと、その一瞬、斎藤は確かに陶酔した。
返り血を浴びた。
どさりと、重いものの落ちる音を聞いた。
斎藤は我に返った。
路地裏に引っくり返った浪人は、料理屋から洩れる薄明かりの中で、ほとんど首の繋がらぬ死体となりおおせていた。
血の気が引いた。
酔いが醒めた。
斎藤の左手に、抜身の刀がずしりと重い。
人を殺してしまった。
酒の席の些細なきっかけから、こんなに簡単に、人の命を奪ってしまった。