誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
斎藤の胸の内を、勝はあっさりと見抜いた。
よく動く唇が、にぃっと、人の悪そうな笑みを形作った。
「おまえさんが罪を認めて死んだところで、何にもなりゃしねえよ。むしろ、死んで手も足も口も出せなくなっちまった後で、俺がおまえさんの大事な剣術仲間にちょっかいを出したらどうする?
人斬りを出した道場だなんて噂が流れたら、門弟が逃げ出して、潰れちまうよなあ」
「やめてくれ」
勝が、声を立てて笑った。
「即答かい。おまえさんが口籠【くちごも】らなかったのは初めてだな。なるほど、そのあたりがおまえさんの泣き所ってわけだ。
仲間が大事かい? 強者揃いの、大した道場なんだろうな」