誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
斎藤はうつむいた。
知恵も舌もよく回る男に弱みを握られている。
抵抗して勝てるはずなどない。
「山口一だ。天然理心流の試衛館に縁がある」
「生まれはどこだ? 試衛館って道場はどこにあって、どんな人間がいる?」
言い淀むわけではないが、滑らかではない調子で、ぽつりぽつりと言葉を発する。
斎藤は、そんな常の話し方で、矢継ぎ早な勝の質問に答えた。
嘘はつかなかったし、隠し事もしなかった。
そうする余裕はなかった。
斎藤から一通りの情報を引き出した勝は、ふふんと得意げに笑い、行儀悪く立てた片膝を、ぱしんと打った。