誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
うなずくよりほかにない。
勝が、山口一改め斎藤一の目の前で、斎藤一という男の像をあっという間に創り上げていく。
人前では右利きのふりをしろ。
上背があるのを目立たせないよう、大通りは猫背で歩け。
人斬りの太刀を振るうときは遠慮なく、右に差した刀を左手で抜いてみせればよい。
「斎藤一、おまえさんは今日から俺の間者だ。京都で刀を振り回すやつら、佐幕派に倒幕派、尊皇攘夷に公武合体、長州、薩摩、土佐、会津、そいつら全部の動きをよく見ろ。
見て、聞いて、俺に話せ。おまえさん自身は何も考えなくていい。一つずつ知っていくだけでいい」
「なぜ、俺が?」