誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


「無知だが、馬鹿じゃあねえ。剣術試合じゃなく、斬り合いの喧嘩で生き延びる術【すべ】を持っている。そういう男を探していた。おまえさんがぴったり当て嵌【は】まるってわけだ。


俺は、自分には人を見る目があると思ってる。おまえさんは俺の期待通り、やり遂げるだろうよ。試衛館の大事な仲間たちの命運も懸かってるわけだしな。


まあ、連中は浪士組の募集に応じるだろうから、京都で再会できるさ。そしたら、また仲良くすりゃあいい」



「近藤さんたちには、不利益のないように」



よろしくお願いしますと声にはうまく出せぬまま、斎藤は頭を垂れた。


膝の上の二つの拳が視界に入り、関節が白く浮き出るほどきつく握り締めていたことに、初めて気付いた。


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