誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―
斎藤は、誰の立場とも共鳴できない自分を、醒めた気持ちで眺めていた。
心の奥底から何かを信じて動けるならば、どれだけ気楽で清々【すがすが】しいだろうかと思う。
いっそのこと、誰かが斎藤の薄情に気付いて糾弾【きゅうだん】してくれたらよい。
なぜ誰も気付かず、むしろ誰もが斎藤を聞き役にと望んだりするのだろうか。
藤堂は、試衛館時代からの仲間内では斎藤や沖田と同い年で、生まれ月で言えば最も若い。
小柄な体格とやんちゃな性格のせいで更【さら】に若く見えてしまうが、実のところ、意外にも学問は一通りの基礎がある。
賤【いや】しくない家柄の育ちだから、朱子学の聞き覚えが下地にあるのだ。
そんな藤堂だからこそ、伊東の学識の質の高さと量の豊富さを実感できるのだろう。
暇を見付けては伊東と話をし、逐一感心したり納得したりと勉強熱心である。