誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


一日、隊士が増えて手狭になった屯所で、斎藤は自分の方へやって来る藤堂の足音を聞いた。


毬【まり】のようにしなやかに弾む足音は独特だから、藤堂のものだとすぐにわかる。


後ろから飛び付かれるのの先手を打って、斎藤は振り向いた。


藤堂は斎藤の肩口を遠慮なく叩きながら、今し方、言葉を交わしてきた伊東の見識を誉めちぎった。



「なあ、斎藤、やっぱり伊東先生はすげえよ。これまでの日本のこと、これからの日本のこと、何を質問しても全部に答えてくれるんだ。それも全部、筋が通ってる。


ちょっとした思い付きで話をしてるんじゃあねえ。歴史から学んだことを肥やしにして、自分の思想をきちっと組み上げてあるんだ。


俺、こんなに頭がすっきりしたことはねえや」


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