誠狼異聞―斎藤一、闇夜に駆けよ―


ただし、同じ攘夷の思想にも、大きく分けて二つの流れがある。


徳川幕府の扱いが争点だ。


幕府は、二百六十年を超える歴史を経るうちに腐敗と矛盾を蓄積させ、今ではもう誰の目にも明らかに、弱体化している。


その幕府を支え、立て直しを図ろうというのが佐幕派である。


弱くて腐った幕府はもはや不要であると主張するのが倒幕派である。



新撰組は、そもそも徳川幕府首脳陣の提言により、幕府の意を汲む治安維持組織として発足した浪士組を前身とするので、佐幕派である。


預かり先である会津藩が徳川幕府創建以来、徳川家に対して日本で最も厚い忠誠と恭順を貫き通していることも、思想的な影響が大きい。


会津藩主の松平容保は、幕府の絶大な信用を受けて京都守護職に就いているだけでなく、天皇からもまた、日本中の武家の誰よりも信用されている。


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