クールな准教授の焦れ恋講義
「どうした? なんか元気ないな」

 考えに耽っていた私は先生の声で現実に戻った。心配そうにこちらを見ている先生のグラスは空だ。

「そんなことないですよ。何か飲みます?」 

「いや、いい。それより煙草吸ってかまわないか?」

 私は少しだけ眉をひそめた。訊いておきながら先生は既に煙草の箱を取り出している。

「私が嫌だって言ったら吸わないでいてくれます?」

「そう怖い顔で言われたらな」

 そんな怖い顔をしているのか。一瞬悩んだが、私はすぐにその怖い顔をやめて笑顔を作る。先生には苦笑いに見えただろうけど、それでも怖い顔よりはましだ。

「どうぞ。でも一本だけにしておいてくださいね」

「悪いな」

 そう言って先生は煙草を咥えて持っていたライターに火をつけた。その姿を遠慮なくじっと見つめる。私は煙草が、正確には煙草の煙が大の苦手だ。

 それでも先生が煙草を吸う姿はやはりかっこいいと思ってしまう。煙草を持つ長い指も、煙を吐いたときに見せる無防備な顔も。

 惚れた欲目というのも重々承知しているけど、大学では見せない先生の素の部分を見せてもらえている、許されているような気がして。

 というのも先生は滅多に煙草を吸わない。研究室では本に臭いがつくから、という理由で吸わないし大学でも喫煙スペースは随分と限られている。だから先生が煙草を吸うこと自体を知っている人も少ないと思う。

 煙草を吸うときも、こうしていちいち私に確認をとってくれるし、煙が極力こちらにかからないように配慮してくれる。そういうさりげない優しさを目の当たりにして、先生への気持ちを再確認しながら募らせていくばかりだった。
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