クールな准教授の焦れ恋講義
 店を後にして、少し冷たい風を頬に受けながら私は何も言うことが出来なかった。ここからどちらの家も同じ方向なので自然とそちらに足を向けて歩き出す。

 黙ったままなのもいかがかと思い私は今度の調査についての話を振ると先生も素直に返してくれた。

 さっきの奥さんと先生とのやり取りについて何か言及してもおかしくはないだろうけど、怖くて出来ない。先生の言ったことを疑っているわけじゃない。

 ただ自分の能天気ぶりに嫌気が差す。どうして“自分は特別だ”なんて勘違いしていたんだろうか。学生のときと先生との関係は変わった。

 それでも私を連れて行くように、他の女性と二人でご飯を食べることくらい先生にとってはたいしたことではないのだ。なんたってどちらも仕事絡みなのだから。 

 言いたいことが言えないまま他愛ない話をしていると先に私のアパートが見えてきた。そこで話が一段落したこともあり、思い切って胸のざわつきの原因をぶつけてみる。

「先生、彼女いるの?」

「どうした突然」

 脈絡のない突然の質問に先生は驚いたような顔をしてこちらを見た。そしてその目を見ることなく続ける。

「もし彼女がいるならこうして二人でご飯を食べて申し訳ないなと思って」

 本当に言いたいのはそういうことではないのだけれど、今の私にはこんな風に言うのが精一杯だった。
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