クールな准教授の焦れ恋講義
「んな気を遣わなくていいんだって。お前こそどうなんだ? もう社会人になって三年だろ。そろそろ仕事ばかりじゃなくて彼氏ぐらい作れよ。二十代なんてあっという間だぞ」

「大きなお世話ですよ」

 平然を装って短く返す。仕事を色々と押し付けてくる先生に言われたくない! なんて返そうかと思ったが、そう言ったことで気を遣われて先生と接する機会が減るのは困る。結局答えをはぐらかされたまま先生はわざとらしい口調になった。

「年頃の娘がもうすぐ誕生日だってのに、祝ってくれる彼氏の一人もいないなんて……」

「そんな可哀相な子みたいに言うのやめてくれます?」

 なら先生はどうなんですか? なんてもう訊き返せない。どうやら私は自分で自分の首を絞めてしまったらしい。やはり先生はあのときのことなんて覚えていないのだ。そして私のことだって――

「ま、今年の誕生日もまた一人で過ごすようなことになったら飯くらい付き合ってやるよ」

 私はこれでもかというほど目を見開いた。何かがこみ上げてくるように気持ちが一気に浮上する。

 いつも先生は絶妙なタイミングで私を操作してくるから、本当は何もかも分かっているんじゃないのかと思ってしまうほどだ。ずるい、だから先生のことを諦められない。私は緩む顔に力を入れていつもの笑顔を作る。

「プレゼントも忘れないでくださいね。私、そろそろ新しい名刺入れが欲しいんです」

「贅沢な奴だな」

 悔しくて可愛げのないことしか言えない。本当はプレゼントなんていらない。一緒に過ごしてくれるだけで十分なのに。
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