クールな准教授の焦れ恋講義
 帰宅してから部屋の電気を点けて、まずはお風呂の支度をする。三月とはいえ夜はまだ寒いので私は薄手のコートを羽織っていた。それを脱いで改めて自分の服や髪を匂ってみる。

 やはり、というか先生の煙草の匂いが移っていた。そのことに勝手に胸がときめく。いつもなら嫌悪感しかない煙草の煙だが好きな人のものとなると、こうも感じ方が違うらしい。それに先生の煙草はどこか甘い香りがする。

 それにしても、もうすぐ先生の言った三年がやってくるわけだが私はどうするべきなんだろうか。先生に言われたから、というわけでもなく私の気持ちはあの頃と変わらないままずっと先生を想っている。

 それでも社会人になって先生の言うずるい大人になって分かってきたこともある。あのときの先生の言葉は、押しに押されてはっきりと振るのが可哀相になって出た言葉なのかもしれない。

 私も随分詰め寄ってしまったし。何より言った本人は忘れているみたいだった。私に彼氏を作れ、とまで言っていたし。

 目の奥がじんわりと熱くなって私はベッドに腰掛け項垂れた。あの頃は怖いものがなかったから自分の気持ちを素直にぶつけられた。でも今は違う。

 今築いている先生との心地よい関係を壊すのが怖い。二回目ともなると、振られたらもう今までのようにはいられなくなるかもしれない。先生にだって気を遣わせてしまうかもしれない。仕事関係でもこれから付き合っていかないとならないのに。

 私も少しは大人になったのだ。自分の気持ちを相手にぶつけることだけが正しいとは限らないのも分かっている。相手の気持ちや立場、尊重しなくてはならないものが沢山ある事だって。だとしても

「もう一度、告白したらどうなるんだろう」

 部屋の静けさに飲み込まれた独り言に胸が痛くなる。その答えは先生だけが知っているのだ。
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