クールな准教授の焦れ恋講義
「もちろん、ですよ」

 やっとのことで出たのは言葉とは裏腹に消え入りそうな弱々しい声だった。何故なら先生の言う恋愛というものが正直、私にはどういうものかよく分からなかったから。

 だから、どうやって? と尋ねようとしたら声を出す間もなく唇に温もりを感じた。初めての柔らかい感触に後からキスされたのだということを理解する。触れるだけの優しいものだったのに私は顔から火が出そうになって狼狽えた。

「こういうことだって分かっているのか?」

 照れもあってかぶっきらぼうに投げかけられた先生の言葉に私は何も言えず、ただ首を縦に振った。そして色々な気持ちが溢れかえって先生に抱きつく。にやけてしまう顔を隠すために先生の胸に顔を埋めた。

「本当に、俺のどこがそんなにいいんだか」

「納得するまで語りましょうか?」

「遠慮しとく」

 口ではそう言いながら先生の手は優しく私の髪を梳いてくれる。こんな風に先生に触れてもらえるなんて夢にも思っていなかったから頬が緩みっぱなしなのは許してもらおう。だって幸せでこんなに満たされた気持ちは初めてなんだから。

 先生はゆっくりと私から離れると、いつも持っている自分の仕事用の鞄のところまで歩み寄った。そしてその中から文庫本よりも一回りも小さな包みを取り出した。

「ほら、誕生日プレゼント」

 差し出されたものと先生との顔を交互に見つめて私はおずおずと手を出した。
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