クールな准教授の焦れ恋講義
「どう? 大学生活は楽しい?」

 そこでいきなりの質問に面食らう。先生らしい質問ではあるが、なんだか近所のお兄ちゃんみたいなノリだ。

「……分かりません」

 だからか、はいと答えて受け流すのが正解なのに私はつい正直に答えてしまった。入学して一ヶ月が経とうとして友達もそこそこ出来て、一人暮らしにも慣れてきた。それでも私の心の中には何かぽっかりと穴が空いているようだった。

 サークルも色々見学に行ったけれど今ひとつ心動かされない。親からはバイトより勉強しろ! なんて言われているが、何かなりたいものがあるわけでも、勉強したいものがあるわけでもない。

 正直、センター試験の結果と実家からの距離という理由で大学も学部も決めてしまった。そんな私がこれからどうしたいのか、どうなりたいのかなんてよく分からない。

「いえ、あの。自分が何に興味があるのとかもよく分かっていないもので。深い意味はないんです」

 そんな曖昧な気持ちを世間話のつもりで訊いてきた先生に話すのはなんだか申し訳なくなった。案の定、先生は何かを考え込むような素振りを見せている。きっとなんて声をかけていいのか迷っているのだろう。

「あのさ、ここでちょっと待っててくれる?」

 何かフォローしようとしたところで予想外のことを言われて、私は頷くしか出来なかった。先生は早足で私の元を去っていくと、しばらくしてからまた早足で戻ってきた。その手には一冊の本が握られている。
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