クールな准教授の焦れ恋講義
「しょうがないだろ。会議が入ったのは事実だし矢野くんがいい奴なのも知ってるからな。どうせお前、同年代の男とデートもしたことないんだろ。機会がなかっただけで、違う男に目を向けたらそっちがいいかもしれないって気づくんじゃないかって思ったんだよ」

「先生の天邪鬼」

「試すような真似をして悪かったって」

 結局、矢野さんと会っていても浮かぶのは先生のことばっかりだと言うのに。でも悔しいからそれを口には出さないことにした。

 先生の言動に随分と振り回されてしまい先走った行動もとってしまったし、いらぬ涙も流してしまった。でも好きな人の一挙一動で一喜一憂する、それが恋なのだからしょうがない。

「いいですよ、大人はずるいんでしょ?」

 たっぷり数十秒の間を空けて答えてから、思いきって抱きつくと先生の身体の力が抜けた。

「お前が聞き分けがよくて本当に助かるよ」

「じゃないと先生に七年も片思いなんて出来ませんって」

 そっと身体を離して改めて先生の顔を見つめる。先生は相好を崩して私の頬に触れた。その手は思ったよりも骨ばっていて大きいけれど体温は私よりも高い。

「お詫びにこれからは、たっぷりと甘やかしてやるから」

 そう言って再び唇が重ねられる。二度目だというのに、緊張のあまり目を閉じることも出来なかった。

「ほ、ほどほどで、かまいませんよ」

 唇が離れて触れるか触れないかギリギリのところで私の掠れた声は空気を振るわせた。

 先生はそれには何も答えることはなかったが、代わりに腰に回していた腕に力を入れて強く引き寄せられると、何度もキスをしてくれた。軽く触れるものから息が苦しくなるほど長いものまで。角度を変えて繰り返される口づけに私は眩暈を起こしそうだった。
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