クールな准教授の焦れ恋講義
 私が担当して年度末までしていた郷土史の企画展示コーナーでこちらのご主人からお借りした資料をいくつか飾っていたのだ。厳重に包まれ箱に入ったこの冊子がどれぐらいの年代物で価値があるのかは素人目でも分かる。

 どういう内容なのか先生が熱く語ってくれたのを思い出しながら店の隣の空き地に車を停めて私は引き戸に手をかけた。やや立て付けが悪く軋むような音と共に風鈴が揺れて来客を知らせる。

「ごめんください。民俗資料館の者です」

 そんなに大きな声を出さなくても声は十分に響いた。今日は春の陽気とはいかないまでも、そこそこ暖かかったが店の中はどこか薄暗くひんやりとしている。もう一度声をかけてみたが反応がないので私は店の奥に足を進めた。

 棚にびっちりと並んだ本たちはどれもそれなりの古さを感じる。埃をかぶっているものもあり、このお店が機能しているのか余計なお世話だが少し心配になった。

「あ」

 そのとき棚ではなく透明のショーケースに飾られている本に私は目が釘付けになった。その本の題名に見覚えがあったからだ。なんとなく小難しかったから頭に残っている。

 何故ならばそれは前に先生が欲しいと探していた本だったからだ。こんなところに、と思うと同時にすぐに別のことに意識をもっていかれる。

 その本に添えられて提示されていた金額は私の一ヶ月分のお給料の半分ほどだった。他の本とは別にガラスケースに仰々しく飾られているのはそれなりに訳があるのだと悟った。
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