クールな准教授の焦れ恋講義
「お客さんかい?」

 突然、声をかけられて心臓が口から飛び出そうになった。顔を向ければレジの奥の扉からひょっこりと年配の男性が不思議そうな顔でこちらを見ている。私は慌てて姿勢を正しそちらに近づいた。

「こんにちは、民俗資料館の早川と申します。この度は貴重な資料を当館の展示のために貸していただき本当にありがとうございました」

「ああ、民俗資料館の方ですか」

 つまらなそうに資料を受けとると、男性はこちらが言う前に中身を確認し始めた。爪は短く丸く切りそろえられ、あまり量のない白髪は額からかきあげるようにしてまとめられていた。なんとなく几帳面な性格なのが窺える。

「少しはお役に立てましたかね?」

「もちろんです! 発掘された人骨の写真や器具なども展示しましたが、やはり当時の方々の様子を書き記したものがあることによって、より具体性が増して、見る方の想像もしやすかったと思います。ここまで詳しく書かれている資料もなかなかないですし、私も興味深く拝見しました」

 何気なく問いかけられただけなのに、つい熱くなってしまった。半分は先生の受け売りだったりするのだけれど。ぽかんとしている男性に私は急に恥ずかしくなって挨拶をして踵を返そうとした。

「ちょっと、あんた」

「はい」

 しかし呼び止められてしまってはしょうがない。再び男性と視線を合わせる。
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