クールな准教授の焦れ恋講義
「さっき棚の本を見ていたけど、あれも資料館で欲しいのかい?」

「あ、いえ。個人的に気になったんですけど、値段を見てとてもじゃないけど手が出せないので」

 いくら先生のためとはいえ、さすがに高すぎる。その答えに男性はしばし悩む素振りを見せた。

「あんたさえよかったらうちで少しバイトしないかい? そうしたらあの本、さらに半額にしてあげるよ」

「本当ですか!?」

 これには食いつく。さらにあの半額なら、なんとか手が出せないこともない。かなり高い買い物ではあるけれど。勢いよく尋ね返したが私はあることに気がついた。

「折角のお申し出なんですけど、副業は出来ない決まりでして」

 冷静に考えれば問題だ。内緒でしてしまえるほど私の神経は図太くない。さすがにバレたら大目玉だ。しかし男性はそれを見越していたかのように不敵に笑った。

「なーに、身体で払ってくれたらかまわんよ」


 つまりはこういうことだ。彼、澤井古書店のオーナーでもある澤井和雄(さわいかずお)さんは、年齢が年齢というのもあり店の本をぼちぼち整理していきたいそうだ。しかし一人でするにはかなりの重労働で人手が欲しい。

 さらには見ての通り専門性が強いので店に来るお客だけでは賄えず、今後はインターネットを駆使してネット販売なども考えているらしい。

「今月いっぱいで空いてるときにでも手伝ってもらえるなら有り難いんだが」

 先程とは違い控えめに事情を話してくる澤井さんに私は喜んで首を縦に振った。空いた時間で手伝いをして本を半額にしてもらえるならこんないい話はない。
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