クールな准教授の焦れ恋講義
 今回は企画展の直接の担当でもないし、なんとか時間を作ることは可能だ。なにより今月末は先生の誕生日だ。この本をプレゼント出来るならちょうどいい。

 とはいっても、この本の量からするとやはり男手も必要ではないだろうか。そんな疑問を口にすると澤井さんは得意げな顔になった。

「大丈夫、あんただけにはやらせんよ。孫にも手伝わせる」

 そう言ってレジの奥に顔を突っ込むと「かずひろー」と大きく叫んだ。しばらくして廊下をバタバタと歩いてくる音がする。

「なんだよ、じいちゃん」

 狭そうにそこから顔を出したのは高校生ぐらいの青年だった。上下スウェットを着用し、黒髪に短髪で細身の体型は今時の高校生っぽかった。

「お前と一緒に本の整理を手伝ってくれる早川さんだ」

「はあ? なんで他人に手伝わすんだよ」

「お前はそもそも本の扱いがなっとらん! 大まかな分野で本を分けるのもできんくせに」

「あんなマニアックな本たち、どう分けたらいいんだよ!」

 言い合いを繰り広げる二人を前に私はどう反応していいのか分からない。呆然としている私に澤井さんが向き直った。

「すまんな、早川さん。こいつはわしの孫で和弘。大学生になったばかりで今月からうちで下宿してるんだ」

 高校生と思っていた彼はどうやら大学生だったらしい。少しむくれていたが、最後はこちらに向かって「よろしくお願いします」と頭を下げてくれた。

 祖父の手前で照れもあったのか、なかなかの好青年だ。なにはともあれ私は古書店を手伝うことを決めて連絡先と今月の空いている日を伝えて店を後にした。
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