クールな准教授の焦れ恋講義
「一回生のゼミ希望者数はどうでした?」

 茄子の煮浸しに箸をつけながら私は訊ねた。口の中でじゅわっと広がるお出汁の味加減は抜群だ。

「例年通り、モテモテだよ」

 台詞とは裏腹に先生の顔はげんなりしている。入学して間もない一回生のゼミ選択はシラバスと新入生オリエンテーションで紹介される先生たちの印象で決めるしかない。

 もう三十を過ぎているとはいえ見た目の良さと若さから毎年、先生のゼミは希望者が殺到だ。実際は課題やフィールドワークが多くてなかなかハードなゼミということで、徐々に希望者は減っていったりするのだが、それでも人気ゼミであるのは間違いない。

 きっとまた先生のファンになる女子がいたりするんだろうな。

「どうした? 旨くないか?」

 そんな私の気持ちを知る由もなく見当違いなことを尋ねてくる先生に私は静かに頭を振った。目の前のテーブルに並べられた料理は全部先生の手作りだったりする。

 付き合いだしてから知った新たな事実、先生はものすごく料理が上手い。そしてまめだ。

 元々料理は好きなほうらしく一人だし忙しいからあまりしなかっただけで、私がこうして訪れるときには必ずご飯を作ってくれる。

 誕生日に提案して仕切り直しとなった鍋も大層美味しかった。締めの雑炊まで絶品だ。そんな料理の腕を見せつけられると、私に出来ることと言えばお皿を出して片付けることぐらいだ。

 林檎の皮を剥かせても絶対に先生のほうが上手い自信がある……悲しいけど。

「美味しいですよ。おかげで食べすぎて太っちゃうかも」

「奈津はもう少し肉がついたほうがいいんだよ」

 何の気なしに名前を呼ばれて動揺するのを悟られないように必死だった。私はまだ先生のことを名前で呼べない。なんとなく恥ずかしくてまだそこまで踏み込めないのだ。
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