クールな准教授の焦れ恋講義
「先生のゼミってどちらかといえば女子が多いイメージでしたけど来年度の二回生は男子ばかりになりそうですね」

「こうなったら二次募集も男子だけにしてやってみるか」

「そうなると調査に行ったら「どちらが先生ですか?」ってまた訊かれるわけですね」

 今までに何度も目にした光景を言うと、先生は微妙な表情になった。

「否定できないのがなんとも言えないな。世話焼きが一人でもいてくれたら助かるんだが」

 先生の行きつけの居酒屋は平日ということもあり奥の座敷が空いていた。そんなに大きい店ではないけど、いつも常連さんで賑っている。

 先生は本当によく来るらしく大将にはすっかり顔を覚えられていて、私がここに連れてきてもらったのは大学を卒業してからだ。

「お、巴先生、いらっしゃい。今日はなっちゃんも一緒か」

「こんばんは。生二つください」

 はいよっ! と元気な声が響いた。

「お前、すっかり慣れたもんだな」

「もう社会人三年目ですから」

「出会ったときは高校を卒業したばかりの純粋な女の子だったのに」

「オンナノコとかやめてください」

 お通しで出してもらった枝豆豆腐をつっつこうとして箸を落としそうになった。女の子、と言われても相手が先生だとどうも子供扱いされているようで複雑な気持ちになる。ただ、どんなに格好つけても彼は一回生のときからの私を知っている。それはなんとも気恥ずかしい。

 とりあえずビールが運ばれてきたので我々は軽くグラスを合わせた。

 私の今の職場は地元の歴史民族資料館だ。資料を一般公開もしているが、どちらかといえば大学と提携しての研究機関としての役割のほうが強い。

 大学生の頃から先生についてフィールドワークに同行しているうちに、こういった関係者の人たちとも多く知り合う機会もありそういったご縁もあって今の職場に就職が出来た。

 事務から調査まで幅広くなんでもこなす……といえば聞こえはいいが、いわば人が少ないのでなんでもしなくてはならないのが現状だ。なかなかハードではあるが興味のある分野で、しかもこうして先生とも繋がっていられるので私にとっては天職だ。
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