クールな准教授の焦れ恋講義
 ちょうど今くらいの季節だ。さすがに学生のときには自分の気持ちを伝えても迷惑なだけだと、卒業式の日にずっと秘めていた気持ちを玉砕覚悟で伝えることにしたのだ。

 困らせるのは目に見えていて、迷惑をかけたかったわけじゃない。私の大学生活はとても楽しくて自分の人生にとって有意義なものになったと自信をもって言える。

 それは先生のおかげだった。だから感謝の気持ちと自分の気持ちを一緒に伝えて、きっぱり振られたらちゃんと諦めるはずだった。

「参ったな」

 全くの予想外ではなかったにしろ、そう言った先生は深いため息をついた。そして

「悪いけど、早川の気持ちに応えることは出来ない」

 真っ直ぐ目を見て言われた言葉は思ったよりも私の心に深く突き刺さった。分かっていたことだし、変に茶化さずにちゃんと答えをくれた。だから後は私の問題なのだ。

「そう、ですよね。余計なことを言ってすみません」

 ここで泣いてしまうのは、さらに困らせてしまうだけだと思って私は俯いて短く返事するのが精一杯だった。伝えたことを少しだけ後悔しながら、その場を足早に去ろうとしたとき

「余計なことなんて言ってないだろ」

 その言葉に思わず振り返ってみると少し困ったような表情の先生が目に入った。

「そういう気持ちは大事だよ。でもお前はよくも悪くも真っ直ぐだからな。これから社会人になって、今よりもっと色々な経験をして色々な出会いがあるんだ。そのとき今とは違うものにその気持ちを向けることになるさ」

「向かなかったらどうします?」

「さあ? そこまでは分からない」

「もし向かなかったら、また考えてくれます?」

「お前なぁ」

 肩を落として呆れ返っている先生に私は畳み掛けるように続けた。
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