御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
ベンチの上に横座りになり、ひどく痛む足の裏を見てみると、数か所切り傷があり血も出ている。
夢中で彷徨っていた時は気にならなったが、この状態で歩くことはできそうにない。
それにここがどこなのか、今が一体何時ごろなのかも分からなかった。
ただ、青白い蛍光灯に照らされた人気のない公園が、さっきまで身を置いていた煌びやかな空間とは切り離されていることだけははっきりしている。
怜人さまはきっとまだあの中にいるのだろう。……いや、彼はずっとあの場所にいるべき人。私とは違うのだ。そんな当たり前のことに、今更のように気づく。
「私、バカだ」
そう言葉に出すと、唐突に涙があふれた。
それはまるで雨のように落ち、途切れることなくパラパラとシルクのドレスに染み込んでいく。
そうだ。怜人さまは私とは住む世界が違う人。そんなこと最初から分かってた。
分かっていたのに、何もかもがあまりにも美しいから、怜人さまが優しいから、つい触れてしまったのだ。
怜人さまと過ごした時間すべてが、走馬灯のように脳裏を過ぎる。
優しい手、優しい腕……そして、挨拶とは違うキス。