御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
そこまで言ったところで、ベンチの隣に腰かけた怜人さまが、私を強く抱きしめた。
覚えのある香りと力強い腕に、驚きで一旦止まっていた涙が再び流れ出す。
「つらい思いをさせてごめん……。もっと早く僕の口から説明するべきだった。あなたにいつ話そうか、ずっと考えていたんだ。でも、あなたにどう思われるかと不安で、切り出せなくて……」
強く抱きしめられ、次第に体の緊張が解けていく。
泣きすぎて絶え絶えになった息がときおり引きつれるように震えて、そのたびに怜人さまはますます強く私を抱きしめる。
その広い胸に、くったりと体を預けた。
温かな胸に顔を埋めるとただ安心で、もうそれだけで何もいらないと思う。
やがて、怜人さまは不意に腕の力を緩め、そっと体を離した。
泣きつかれて力が入らない私の顎を持ち上げ、そっと私と自分の額を合わせる。
とても近い距離。怜人さまの息も、切なさに溢れている。
「いいかげん、泣き止んでください」
かすれた声でささやかれ、なにかを答えようとした唇をそっと塞がれる。
「でないと、僕の好きなようにしてしまいますよ」
その言葉に答えるより早く、怜人さまがまた私の唇に触れた。
経験したことのない、大人のキス。
今まで知らかったキスに、思わずひるんで彼の胸を手で押すけれど、キスは止まるどころか、ますます深いものになっていく。
全身の力が抜け、彼のなすがままに受け入れた。
「あなたを、愛しています」
唇が僅かに離れ、彼が紡いだ言葉に、せっかく止まった涙がまたあふれた。